<ポルトガル北部の婚礼衣装 〜Ola! Portugal写真展より>
黒衣の花嫁
この、黒でまとめたシックな装いは、ポルトガル北部の伝統的な婚礼衣装です。しかし昔のポルトガルにおいて、これは豪華な
刺繍や細工の施された大変高価な物で、北部の内でも経済的により豊かな町の富裕層の物でありました。
私はあるミステリ小説になぞらえて「黒衣の花嫁」と冗談めかして呼んでいますが、現代では違和感を感じる黒い婚礼衣装も、
中世のヨーロッパにおいて黒は高貴な色であり、喪服には紫が用いられていたので奇異な事ではありませんでした。 日本でも
黒い喪服が着られるようになったのは明治の西洋化政策の頃からで、第二次世界大戦以降に庶民に広まるまでは白い喪服が
一般的でした。他のヨーロッパ諸国では18世紀頃から白い(=純潔を表す色)ドレスが着用されるようになりましたが、ポルトガル
北部ではこの黒いドレスがずっと受け継がれてきました。
花嫁は黒いスカートに黒いエプロン、時には黒の上着を重ね、Algibeiraと呼ばれるスペードを逆さにしたような変わった形の
ポシェットを腰に下げます。そして胸元を先祖代々伝わるいくつもの金のアクセサリーで飾ります。北西部のミーニョ地方では手元を
「恋人たちのハンカチ」でくるんだPalmitoと呼ばれる花束を持ちます。
そして時が経って、この女性が亡くなった時には、この花嫁衣装を死装束として棺に納められました。この風習は現代の感覚から
すると奇異に感じられますが、日本でも伴侶が亡くなった時に、婚礼衣装の白無垢を喪服に作り替えていたのはそう昔の話では無い
そうです。
現代のポルトガルでは、この衣装はもう富裕層だけの物では無くなりましたが、やはり白い華やかなウェディングドレスは若い女性
達のあこがれで、結婚式にこの衣装を着られる事は少なくなったそうです。しかし、今でも北部のお祭りへ行けばこの伝統衣装を着た
女性達の行列を見る事はできます。ヴィアナ・ド・カステロなどの土産物屋にはこれらの品が色々と並んでいますから、見かけた時に
はこの話をちょっと思い出して下さいね。
北部の伝統的な花嫁衣装 中)左の写真の拡大。美しいビーズ刺繍と、
袖に少し隠れていますが婚礼用のAlgibeira。
右)小さなカゴで飾られたPalmito
民族衣装の胸元を飾る金糸細工のフィリグラーナ。
これもポルト近郊発祥の伝統工芸です。ヴィアナ・ド・カステロの一般的な民族衣装。
村によって柄や色合いが違います。